【大胆予測】コピー機業界の今後の動向
出典:各社ロゴ
先日、コピー機大手のキヤノンとリコーが、軒並み減収減益との決算報告を行い、業界に激震が走りました。
特に、一番安泰と思われていたキヤノンの下げ幅が予想を超える大きさとなっており、コピー機業界の今後が心配されています。
もともと、斜陽産業と呼ばれているプリント関連業界ですが、新型コロナウイルスの流行により、業界の動向が大きく変わると予想します。
今回は「コピー機業界の大胆予測」と題して、業界の現状や今後の展望をまとめていきます。
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【最新版】コピー機業界・印刷関連業界地図
現在、国内の印刷関連業界を分けると、大きく以下の3つの業界に分けられます。
- コピー機(複写機・MPS)を主力製品として展開しているコピー機業界(青枠)
- プリンター(LBP・IJP)を主力製品として展開しているプリンタ業界(赤枠)
- 印刷機をメインに展開している印刷機業界(黒枠)
出所:会社四季報を参照に筆者作
コピー機業界は?
コピー機業界は、米国ゼロックスを除けば、大手がほとんど日系企業である特殊な市場です。
近年、世界的にプリントレス化(ペーパーレス化)が進み、各社とも収益の悪化など厳しい状況と言われています。しかし、業界的には、ほぼ数社が市場を独占しているため、収益の構造自体は非常に優れており、成長マトリックス上は未だ「金のなる木」です。
そのため、市場が多少シュリンクしようとも、収益を確保し続けられる理由から、大きな改革に臨めないジレンマを抱えています。
そんなコピー機業界のトップ3社はゼロックス、リコー、キヤノンとなっており、特にゼロックス連合(富士ゼロックス・Xerox)が世界シェア1位(20.1%)と、大きなシェア率を誇っています。
次いで、リコー(16.4%)、キヤノン(15.7%)、コニカミノルタ(14.0%)と、日系企業だけで世界のコピー機市場の過半数(66.2%)を占めており、日本の光学技術力の高さを象徴しています(日系3社はいずれもカメラ関連産業で成長)。
プリンタ業界は?
プリンタ業界は主に、LBP(レーザープリンター)とIJP(インクジェットプリンター)の2方式がメインとして存在しています。
プリンタ業界の特徴は、何と言っても生き残ることが厳しい点です。縮小しつつある市場での各社シェア争いは激しさを増しており、さらに互換インクが蔓延している影響から、世界シェアでトップ3に食い込めないと消耗戦に耐えられずに衰退していく現状です。
この熾烈なプリンタ業界で、長く総合トップに輝く企業は、米国のhp(ヒューレット・パッカード)です。
LBP(レーザープリンター)の世界シェアは43.1%と1位であり、IJP(インクジェットプリンター)の世界シェアも2位の33.7%を確保しています。日本国内市場では、それほどシェアを持たない同社ですが、日本以外の市場ではメジャーな企業として知られており、コピー機のシェアも世界5位(9.9%)を誇るプリント界のガリバー的存在です。
なお、IJP(インクジェットプリンター)の世界1位はEPSONで、シェア37.1%と僅かながらhp(ヒューレット・パッカード)を上回ることに成功し、次点でキヤノンがLBP(レーザープリンター)、IJP(インクジェットプリンター)ともに世界3位となっています。
一方、かつて業界トップ層に位置していたレックスマークは後退し、DELLやCASIOも撤退するなど、世界トップ層より陥落すると収益性が極端に悪くなる歪(いびつ)な業界と言えます。
印刷機業界は?
印刷業界は、かなり特殊な市場で、世界シェアの8割を理想科学1社で独占しています。
日本国内では大量プリントや資料の印刷に用いられる理想科学の「リソグラフ(印刷機)」が有名ですが、世界では「RISO ART(リソアート)」と呼ばれるリソグラフを用いたアートや展示会、制作ラボが多く、印刷用途だけではなくアートツールとしても使用されています。
業界を簡単にまとめると・・・
- コピー機業界は超大企業の数社で市場を占有
- プリンタ業界は大小様々な企業が熾烈なシェア争いを繰り広げている
- 印刷機業界は理想科学の一人勝ち。印刷用途から芸術用途まで幅広い用途で愛されている
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【大胆予測】コピー機業界で想定される今後の動き
ここまでは、各業界の特徴や現状について説明しました。
印刷機業界を除いては、コピー機業界もプリンタ業界も目先の問題は「ペーパーレス化の加速」で、課題は「如何にシェアを高めて自社の収益を上げるか?」です。
しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、もはや目先の問題は「ペーパーレス化」だけではなく市場構造自体の変化まで予想しなくてはならない状況となりました。
具体的には「リモートオフィス」の広がりです。
当然、コピー機はオフィスに設置されることを前提としており、そこでの印刷を収益の糧としています。しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、中国や新興国の経済がストップし、また、安定的に収益をもたらしていた欧米各国でもロックダウンが行われ、世界中のオフィスで印刷がされない事態に陥りました。
一方、プリンタ業界にとっては、コロナ禍は少し追い風となる可能性もあります。
自宅で仕事を行う機会が増えれば、自宅のプリンターで出力する頻度が大幅に増えます。結果的にプリンタ業界では消耗品の販売数量が増え、収益の改善に繋がる状況も生まれています。
さて、ここからが本記事のメインテーマです。
このような状況に陥った時、今後の印刷関連業界、とりわけコピー機各社はどのような舵取りを行うのでしょうか。考えられるケースとして、3つのケースをご紹介します。
ケース1:業界再編の加速
日本の業界再編を説明する際、有名な産業は幾つかありますが、いずれも世界的なパラダイムシフト(価値観変化)がきっかけで起きています。
例えば、日本人に馴染みのある自動車産業では、第一次業界再編が1964年頃から行われていました。この業界再編の契機となったのが、日本のOECD加盟です。
日本は、戦後の復興、高度成長などを認められた結果、OECDへの加盟が許可され、ヨーロッパ諸国から対日輸入制限が解除されました。ほぼ鎖国状態であった自動車産業にとっては「資本の自由化」の影響を受けることとなり、外部(海外)の競争に巻き込まれてしまいました。
国内の自動車メーカーは量産体制の確立などに注力せざるを得なくなり、まずは日産自動車とプリンス自動車が合併し、その後、米国のビッグ・スリー(GM、フォード、クライスラー)の圧力を受けるなどしながらも、トヨタ自動車を筆頭に、グループが形成され、日本の自動車産業は衰退することなく成長を遂げました。
今回のコロナ禍による各社決算情報を見ていると、オフィス関連の収益は落ち込み、反対にホーム関連の収益は上がっています。このことからも、コピー機業界のトップ3社の元に、既にOEM(受託生産)関係が築かれているプリンター各社が合流し、自動車業界のようなグループが形成される構図も考えられます。
ケース2:ビジネスモデルの転換
次に、コピー機業界、プリンタ業界ともに、ビジネスモデルの転換が進むことが考えられます。これは、いわゆる「ジレット方式」と呼ばれる消耗品ビジネスからの脱却を目指すものです。
複合機やプリンターのような精密機器は、本体の製造原価が高いため、通常どおりに販売すると非常に高額となってしまいます。そのため、メーカー各社は、本体の販売価格を原価と同等(または赤字)で販売し、拡販することに注力してきました。
これは、市場での本体稼働率を上げ、収益性の高い消耗品(インクやトナー)で利益を回収するビジネスモデルだからです。
現在、コピー機中堅のシャープが行っている「AIoT(AI+IoT)」セグメントで行われている「COCORO LIFE」という事業が、コピー機やプリンタのビジネスモデル転換のきっかけになるのではないか?と考えています。
これは、IoTプラットフォームを軸としたサービスで、プラットフォーム下に各種デバイス(オフィス用品・家庭用品)をぶら下げて、一括で管理・最適化を行う仕組みです。
もともと、大手コピー機メーカーは、ペーパーレス化への対処と差別化のため、10年ほど前からMPS(マネージド・プリント・サービス)を行っていました。こちらは、あくまでも複合機が主体のサービスであったものの、システム的な仕組み自体は、上位サーバーから複合機を管理する点が、IoTプラットフォームサービスと似ています。
今後は、コピー機本体の単体売りを行うのではなく、オフィスサービス・ホームサービスの中にコピー機を内包させるというビジネスモデルへの転換が期待されます。
出典:株式会社SHARP COCORO LIFE
ケース3:複合機を手放し別業態へ
コロナ禍の現状、リモートオフィスの広がりにより、世界的なサーバーの需要が見込まれています。また、日本国内では5G回線が開通し、インターネットの重要性が加速度的に高まっています。
こちらは、主に中堅メーカー以下の「選択と集中」戦略となりますが、収益性の悪化が見込まれるコピー機事業を撤退(売却)し、リソースを半導体事業や半導体露光装置などの産業事業に集中、拡大させるのも一つの手だと思われます。
実際に、京セラは、プリント関連は減収減益となっているものの、産業分野と半導体、コミュニケーション分野では、今後も収益を確保できる見込みです。
このように、採算の取れない事業を思い切って切り離すことも、今後の生き残りのためには必要だと思われます。
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まとめ:今後の展望
今回の記事をまとめます。
- 印刷関連業界は「コピー機業界」「プリンタ業界」「印刷機業界」の3業界で成り立っている
- コピー機はゼロックス連合を除くと、日系企業がトップを維持している
- プリンタ事業は競争が激しく生き残りが厳しい
- コロナの影響により、オフィス用途のコピー機が印刷減→代わりに家庭向けのプリンタが好調
- 今後の業界予測は「業界再編」「ビジネスモデルの転換」「コピー機事業からの撤退」の3ケース